顧客手数料4,000億円節約!Wiseが全銀システムへ接続、金融DX・BaaS業界はどう変わる?

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海外送金手数料の安さで知られる「Wise(ワイズ)」が、日本の金融インフラの心臓部である「全銀システム」への接続の完了と取引の開始を発表しました。このニュースは単なる一企業の発表にとどまらず、日本の金融DX(デジタルトランスフォーメーション)、Fintech(フィンテック)が新たなフェーズに入ったことを意味します。
既に概要をご存じの方は、「なぜWiseはそんなに安いの?」「全銀システム開放で私たちの生活はどう変わる?」といった疑問をお持ちかと思います。
本記事では、それらの疑問を解消するだけでなく、業界の最前線で起きている変化と、それが私たちの財布やビジネスにどう直結するのかについて解説します。

Wiseと全銀システム開放で、送金の「常識」が変わり始めた

ワイズ・ペイメンツ・ジャパン株式会社(以下「Wise(ワイズ)」という。)は、2025年11月25日、日本の全国銀行データ通信システム(全銀システム)にAPI経由で接続し、日本銀行と当座預金取引を開始したと発表しました。これは資金移動業者として初であり、国内円建て送金をほぼ即時に処理できるようになりました。
これにより、業界だけでなく私たち個人の生活まで大きな影響があります。

結論から言うと、「なぜWiseは手数料が安いのか?」と「全銀システム開放で私たちの生活はどう変わるのか?」の答えは、〈決済インフラへの“直結”と競争の加速〉にあります。

以下でその理由と具体的なインパクトをわかりやすく整理します。

1. なぜWiseの手数料は安いのか:ビジネスモデルではなく「配線」の違い

多くの人が「Wiseはなぜこんなに手数料が安いの?」と感じるポイントは、ビジネスモデルの工夫だけではなく、裏側の“配線(インフラ接続)”が根本的に違うからです。

① 中継銀行を極力使わない「ローカル to ローカル」構造

従来の国際送金は、SWIFTネットワーク経由で複数の中継銀行をまたぎながら資金が移動します。そのたびに手数料や為替スプレッドが積み上がり、「送金手数料+為替手数料+中継銀行手数料」でコストが膨らんでいました。

一方、Wiseは各国の国内決済システムに直接接続し、なるべく「国内送金の組み合わせ」として処理するモデルを取っています。

プレスリリースによると、Wiseは以下のようなシステムに接続しています。

  • ヨーロッパ:SEPA
  • イギリス:Faster Payments System
  • シンガポール:FAST
  • オーストラリア:NPP
  • ブラジル:Pix
  • フィリピン:Pesonet および Instapay
  • ハンガリー:国内決済システム
  • 日本:全銀システム 

その結果、Wiseで行われる送金の74%が20秒以内に着金しており、5年前の33%から大きく改善したと公表しています。

中継銀行を減らし、各国の「早くて安い国内インフラ」を直結しているからこそ、途中で抜かれる手数料が減り、処理時間も大幅に短縮されます。 結果として、ユーザーが支払う最終コストも下がる、という構造です。

② 為替レートの透明性と“薄利多売”モデル

Wiseは、公式には「顧客が約26億ドル(約4,000億円)の手数料を節約した」と2025年度の実績を公表しています。

これは、市場実勢に近い為替レート(ミッドマーケットレート)をベースに、レートへの上乗せを薄く抑えて、決済インフラの効率化でボリュームを稼ぐという、「薄利多売+テクノロジー」のモデルが機能しているからです。

つまり「ビジネスモデルがすごい」というより、以下インフラ起点の構造が、Wiseの安い手数料の正体と言えます。

  • 国内決済システムへの直接接続で“配線コスト”を削る
  • 為替レートの上乗せを薄くできる余地を生んでいる

2. 全銀システム開放とは何か:銀行だけのネットワークではなくなる

次に、「全銀システム開放」が何を意味するのかを整理します。

全銀システムは、日本国内の銀行間振込をオンラインで処理する中核インフラです。
従来は参加資格が銀行等に限られていましたが、2022年に資金移動業者にも参加資格を広げる決定がなされました。

全銀ネットの資料によると、現在は以下のような条件を満たせば、資金移動業者も参加可能です。

  • 預金取扱金融機関または資金移動業者であること
  • 業務方法書取扱規則に定める加入金を支払うこと
  • 全銀ネット理事会における加盟承認を受けること
  • 日本銀行当座預金を開設すること(清算参加者の場合)

今回のWiseは、まさにこの制度変更を踏まえ「資金移動業者として初めて、日本銀行当座預金+全銀システムAPI接続を実現した」 というマイルストーンです。
これにより、Wiseは以下ができるようになりました。

  • 仲介銀行を介さず
  • 自社の日本銀行当座預金を使って
  • 全銀システム経由で国内取引を直接決済

3. 金融DX・BaaS視点で見ると、何が起きているのか?

ここで、「金融DX」「BaaS」との関係を整理します。

金融DX:インフラそのものがクラウド&API化

金融DXは「紙やハンコをなくす」だけではなく、銀行の根幹インフラをAPI経由で使えるようにする流れでもあります。

全銀システムのAPI接続や参加資格拡大は、「銀行だけが使える専用線」だったインフラが「条件を満たすノンバンクにも開かれた共通インフラ」へと変わることを意味します。

BaaS:銀行機能を“組み込みサービス”として提供

BaaSは、簡単に言えば「銀行の口座・送金・決済などの機能をAPIとして提供し、非金融サービスに組み込めるようにする仕組み」です。

Wiseのように決済インフラに直接つながったプレイヤーが増えると、

  • ECサイト
  • フリマアプリ
  • 給与即時払いサービス
  • SaaSの資金管理ツール

などが、自社アプリの中に“ほぼリアルタイム&低コスト”な国内・海外送金機能を組み込めるようになります。

つまり、「全銀システム開放+Wiseのようなプレイヤーの登場」=「BaaSの土台になる決済インフラ」が整い始めた と言えるのです。

4. 全銀システム開放は、私たちの生活にどう効いてくるか?

では、一般のビジネスパーソンや生活者にとって何が変わるのでしょうか。具体的なシナリオで考えてみます。

① 海外送金が「高くて遅い」から「安くて早い」へ

「海外出張や留学費用の送金」「海外のフリーランスへの支払い」「海外の証券・不動産投資の送金」ような場面で、従来は「数千円の手数料+数営業日」がかかっていました。

しかしWiseなどを通じて、「数百円〜レベルの手数料+数十秒〜数分以内」で完了するという体験が、より一般的になっていきます(実際の金額・時間は通貨ペアやサービスによって異なりますが、構造的には「安く・早く」なる方向です)。

② 給与・報酬・キャッシュフローの“日単位”から“秒単位”化

全銀システムの即時決済と、Wiseのようなインフラを組み込んだBaaSサービスが組み合わさると、以下のような世界が現実的になります。

  • フリーランスが仕事完了直後に報酬を即時受け取る
  • ECの返品・返金がその日のうちに口座へ着金
  • 海外子会社への資金移動もほぼリアルタイム

これは、G20やFSBが掲げている「クロスボーダー送金のコストを1%以下に、支払いの75%を1時間以内に」という目標とも方向性が一致しています。

③ 送金ミス・詐欺リスクの低減

Wiseのプレスリリースでは、統合ATMスイッチングサービスを通じて受取人名義の確認(Verification of Payee的な機能)が可能になると説明されています。

これにより、「カタカナ名義のわずかな違いで送金が止まる」「入力ミスで全く別人の口座に振り込んでしまう」といった、日本でありがちなトラブルを減らす方向に働きます。
「速くて安い」だけでなく、「正確で安心」な送金の基盤が整ってきていると言えるでしょう。

まとめ:インフラが変わると、お金の“当たり前”が変わる

改めてポイントを整理すると、次の通りです。

  • Wiseは各国の国内決済システムに直接接続し、「中継銀行を極力使わないローカル to ローカル」の構造で手数料の安さとスピードを実現
  • 全銀システムの参加資格拡大により、資金移動業者も日本銀行当座預金を持ち、国内決済インフラに直接アクセスできるようになった。これが金融DXの土台になった。
  • Wiseの全銀システムAPI接続は、「ノンバンクが決済インフラに直結する」具体例であり、BaaSの発展やクロスボーダー送金の高度化を後押しする
  • 私たち個人の生活では、海外送金のコスト・スピード・安心感が大きく変わり、給与・報酬・返金などのキャッシュフローが「日単位→秒単位」へとシフトしていく可能性が高い。

そして「なぜWiseは安いのか?」「全銀システム開放で何が変わるのか?」の答えは、 『インフラが開かれ、ノンバンクも参加することで、競争が生まれたから』です。


参考・出典

本記事は、以下の資料を基に作成しました。


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